キンタマーニ高原

実在したりしなかったりします

森下直貴・佐野誠『新版 「生きるに値しない命」とは誰のことか』(中公選書)

ナチス安楽死思想の原典」とされる文章に著者2名の「批判的考察」を加えた本作、「あえてナチズムのにおいを拭い去り、真正面から原典に向き合う」という意図も含め、むしろ現代においてこそ読まれる価値はある。

いわゆる原典とされる「生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁」では、文字通り「生きるに値しない命」とされた者、特に「精神遅滞」「白痴」の者への差別的理論が、2名の著名な学者によって展開された、という事実に驚く。法律家のビンディングの「理論的」な見解を、医師であるホッヘは止めるどころかむしろ「同意」している節さえある。両者の見解は異なるとはいえ、「生きるに値しない命を終わらせる行為は、生きながら苦痛を受ける者への慈悲であり、『社会的お荷物』をいかにして終わらせるかは、とても意義のあることである」という点では一致している。

これに対して、法学者である佐野氏は「この思想・著作を『ナチズムのもの』のみとして終わらせることなく、我々は常にこうあってはならないことを胸に刻み続けるべきだ」とする。

一方森下氏は、「老成学」という新たな見地から、特に橋田壽賀子氏への批判を交えつつ、「生きることは『コミュニケーション』であり、老い、死ぬ様をいかにして生きるか、が重要である」と説く。

20年前に出版され、一時は絶版ともなった『「生きるに値しない命」とは誰のことか』が、こうして現代に蘇り、読まれることの価値は十二分にあるといえよう。我々はいつも、誰かを無意識に「選別」してしまってはいないだろうか。やや難解ではあるが、読む意義はある。